謎紳士のグラン・ギニョール
特殊犯罪捜査課 咲崎 条一郎 「ことばあそび」
作:両声類謎紳士 月華
咲崎 条一郎♂(さきざき じょういちろう):特殊犯罪捜査課の男。元殺人鬼。
清成 都♀(きよなり みやこ):特殊犯罪捜査課であり、咲崎の監視を任されている
常澤 良助♂(ときさわ りょうすけ):17歳、高校生。中川のクラスメイト。
中川 健二♂(なかがわ けんじ):17歳、高校生。常澤のクラスメイト。
校長♂:2人が通う高校の校長。
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中川:良助、お前どうしたんだよ。そろそろ帰ろうぜ。
常澤:「どうした?」。良く言うよ。自分で考えてみればいいだろ。
中川:はぁ?わけわかんねぇよ。それに何、お前キレてんの?
常澤:当たり前だろ!もう我慢の限界なんだよ!いつもいつもお前たちにバカにされて!
中川:いやあれはいじりだから!お前だって何も言い返して来ないじゃねぇか!
常澤:うるさい!もう全部面倒なんだよ!だからもういいんだ、殺してやる!
中川:ちょ、お前そんな物騒なナイフ持ってたんかよ!やめろ!
常澤:しね!!
中川:や、やめろって!
常澤:ぐぎぎ……!
中川:オラァ!
常澤:あっ!
中川:いい加減に――しろッ!(常澤を刺してしまう)
常澤:ぎゃああああ!クソが、クソが、クソが……。がはっ!(倒れる)
中川:……あれ、常澤?おい、死んでないよな?おい、おい、おい!!やべぇ、どうしよう……!!
都:生徒による投身自殺ですか。
校長:は、はい。今朝出勤したら騒ぎになっていて。常澤くんという男子生徒が、地面に伏した状態で倒れていたんですね。血みどろだったものですから、生徒たちの混乱も酷く……取り急ぎ、本日は緊急で休校という措置を取りました。
咲崎:そいつは残念な対応ですね。もしかしたら犯人はいたかもしれないのに。
都:はぁ~!また変なことを言う!
校長:あ、あの警察さん、この方は……。
咲崎:どうも、特殊犯罪捜査課所属の、咲崎条一郎と申します。一応警察の者で部外者ではございませんのでご安心を。
校長:はぁ、「特殊犯罪」……?
都:ごめんなさい、誤解させてしまいますよね。特殊なのは犯罪じゃなくて「この男」なんです……。
咲崎:そういうことでして。
校長:はぁ、なるほど……、警察にもいろいろなお仕事があるのですね。
都:早速ですが、現場の調査に入らせて頂いてよろしいでしょうか。
校長:はい。今回の件で常澤くんのご家族や、ショックを受けている生徒もおりますので、わたくしはそちらの対応に回ります。何かございましたらお声がけください。
都:かしこまりました!
咲崎:ふぅん……ショック、ねぇ。
都:遺体はうつ伏せ、強く地面に身体を打ち付けた痕跡がありますね。うーん……状況から見ると確かに自殺ですが……何か思い悩むことでもあったんでしょうか。
咲崎:よいしょ。
都:ちょっと!!軽率に遺体を仰向けにするな!!――あれ?
咲崎:さすがの都クンでも気づくか。腹部の1か所に、変な傷がある。
都:本当だ。でもこんな量の血が出るほどの傷ではないですよね?どういうことなんでしょう。
咲崎:そもそも自殺をしようとしていた人間が、なぜこんな妙な部分を斬りつける必要がある?
都:え……うーん。刺してうまくいかなかったから、身を投げることにした、とか?
咲崎:最初から自殺するつもりならこんな変な部分は刺さない。首とか心臓とか急所を一気に切り裂くはず。
都:相変らず物騒な想像力だけはありますね!
咲崎:まぁ要するに――他殺だね。これは。
都:ええ!?
咲崎:それを立証するものは、恐らく屋上にある。行くぞ都クン。
都:も~~勝手に歩きだすな!足長いんだよお前!!
咲崎:見たまえ。これが「自殺不可能を立証出来る空間」じゃあないか。
都:ほ、ほんとだ。屋上だけど高いフェンスがあって、これじゃあ投身自殺は難しい……あれ?1か所だけ、フェンスに穴が開いてる!
咲崎:よじ登れないことはないだろうけど、あえてそれをしていない。そもそも投身自殺をするつもりなら、ナイフなんかいらないはずだ。点と線が繋がってないんだよ。
都:うーん、となると、誰かが介入していた?
咲崎:――ふん、フェンスの切り口がかなり粗い。そもそも、フェンスを切り抜いて人ひとり放り投げるぐらいの穴をあけるなら……恐らく「サバイバルナイフ」とかそういうものだろうな。
都:咲崎さん!貯水槽の奥の方に、隠すようにナイフがありました!鑑識に回します!
咲崎:たまには役に立ってくれるじゃないか。さぁ、ご対面といこうじゃないか。
中川:何すか??今日休校じゃなかったんですか?
校長:いや、すまないねぇ。刑事さんがキミに聞きたいことがあるって仰っててね。
中川:はあ。
咲崎:どうも、こんにちは。私は特殊犯罪捜査課所属、咲崎条一郎と申します。少しお話をうかがいたくてね。よろしく、中川クン。
都:特殊犯罪捜査課所属、清成都です。お友達が亡くなって辛いだろうけど、少し聞かせてもらえるかな。
中川:あ、はいっす……。
咲崎:単刀直入に言ってしまうんだが、私たちはあの事件はね、自殺じゃないと思ってるんだよね。
中川:――っえ。
咲崎:このサバイバルナイフに見覚えがあるだろう?これには常澤くんの指紋と、そしてキミの指紋が検出されたんだ。つまりこのサバイバルナイフを常澤くんとキミは使った。間違いないね?
中川:……あ、はい。なんか、屋上に呼び出されたと思ったら、それを常澤に自慢されたんすよ。触ってみろって、触ったし。そしたらあいつ、急におかしくなっちゃって。
都:おかしくなっちゃった?
中川:もう我慢の限界だ~とか、殺してやる~!とか言って、俺に襲い掛かって来たんすよ!
都:えっ!
中川:俺はもう必死で……う、うっかりあいつのこと刺し返してしまって。そのまま屋上から逃げたんです。ねぇ刑事さん、これって「正当防衛」ってヤツだろ?罪じゃないんすよね!?俺だってめちゃくちゃ怖かったんすから……。
咲崎:まぁ正当防衛にはあたるね。だがキミはその後、自殺偽装までやってのける冷静さはあったんだろう?
中川:は!?自殺偽装…!?
咲崎:キミは本当かどうかはさておき、うっかり常澤くんのことを刺した。その後常澤くんは意識を失うなりなんなりしたのだろう。その時息があったのかもまだわからないが、さっき僕が確認した程度の傷の浅さなら、まだ気絶の範疇だったかと思うがね。キミは「殺してしまった!」と思った。――だからこれを「常澤くんの自殺」ということにしようとした。キミは凶器となったナイフで屋上のフェンスに穴を開け、そこから常澤くんを放り投げたんだ。
中川:――ッ!
咲崎:素直なのは良いことだ。
中川:――で、でも結局は、あいつが切り掛かってきたのが悪いんだろ!?俺は被害者なんですよ!?
咲崎:キミが「自殺偽装」なんて余計なことをしなければ、もっと軽く済んだだろうけど。彼の死因は頭部から落ちたことによる、打撲及び首の骨折なんだ。結果的にキミが殺した事になった。――相応の処分が下るだろうね。
中川:はぁ!?なんで……なんで俺だけなんだよ!?ちくしょうマジであいつ許さねぇ!!なんで俺だけ!!なんでなんだよ!!みんなもあいつのことイジって遊んでただろ!!なんで俺だけなんだよおおおお!!!
都:――中川さん。一度警察署までお願いします。
都:――「なんで俺だけ」、かぁ。確かに、どうして中川くんだけ殺意を持たれたんでしょうか。
咲崎:そんなに難しいことじゃないよ都クン。これを見ればわかる。
都:2人の通う学校のクラスのグループSNSのログ、ですか?っていうかこんなものいつの間にどこから手に入れて――。
咲崎:常澤くんは明らかにスクールカースト下位、いわゆる「いじり」の対象だったことがわかる。まぁ「いじり」なんてのはほぼ集団リンチとそう変わらんのだけれど。
都:これは……ひどい。常澤くん辛かっただろうな。
咲崎:そしてこれが、事件が起こる前日の、中川くんのグループ内でのこの発言だ。
都:「常澤マジで面白いしね」――ん?これだけですか?
咲崎:そうだよ。
都:イジってはいるようですけど、中川くんはこの一言だけで、ターゲットにされてしまったってことですか?なんか変ですね……?
咲崎:キミは本当に警察官か?考えてみればわかるだろ、これは「言葉じゃない」。文字として投稿されたものなんだよ。
都:?文字として……?
咲崎:「常澤面白いしね」、「常澤面白い」「しね」。
都:え!?そういうことですか!?じゃあもしかして中川くんがそんな気がなかったとしても、常澤くんは「しね」と言われたと、勘違いしてやったということ……!?
咲崎:どういうところで爆発するかわからないのが人間で、その時たまたま逆鱗に触れてしまったってのが中川クンだったってだけだよ。
都:そ、そんなことって……。たったこれだけのすれ違いで……?
咲崎:都クン、何か勘違いをしているようだが、人間はお互いを簡単に殺す生き物なんだよ?
都:――!?
咲崎:だから「法」があるんだ。人間は実に不安定な生き物だ。義理人情があれば怨恨私怨も存在する。だからそれを裁くのは人間じゃなくて「法」なんだよ。キミもそれに仕える犬の一匹なんだろう?しっかりしたまえよ。
都:――。そこまでわかっていて、なぜアンタは、殺人鬼になったの……?
咲崎:――ハッ、さてね。……どうしてだか。
おしまい
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