謎紳士のグラン・ギニョール
『特殊犯罪捜査課 咲崎条一郎「幸せの顔」』
作:両声類謎紳士 月華
登場人物
咲崎 条一郎♂(さきざき じょういちろう):特殊犯罪捜査課の男
清成 都♀(きよなり みやこ):特殊犯罪捜査課であり、咲崎の監視を任されている
亜園 月弥♂(あその つきや):漫画家。
板橋 涼子♀(いたばし りょうこ):被害者。
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月弥:……本当に、いいの?
涼子:いいんだよ、月弥。
月弥:でも。
涼子:月弥先生。
月弥:……。ふーっ。ぐっ――!(力を込める音)
涼子:ぐ……!か……はっ……!
しばらく悶着し、涼子が沈黙する。一方、月弥の呼吸のみが響く。
月弥:ぐっ、うっ……(涼子の遺体を運んでいる)
ふぅ……。――さて……。
咲崎:いやぁどうもどうも、へぇ~!ここが漫画家さんの作業部屋ですか。
都:ちょっと咲崎さん!勝手に現場をうろつかないでください!
咲崎:固いこと言うなよ都クン。こんな機会めったにないよ?へぇ~!これが生原稿ってやつですかぁ~!
月弥:まぁそうですけど……警察さん、この人は……?
咲崎:あぁ!申し遅れました。私は特殊犯罪捜査課の、咲崎条一郎と申します。一応警察の者ですのでご安心を。
都:そんな態度じゃ安心できませんよ!すみません。私は特殊犯罪捜査課所属、清成都と申します。彼のことは私が監視しますのでご安心を。
月弥:とくしゅはんざい、捜査課?それってどういう……。
都:あぁすみません。ちょっと誤解を生みやすい名前ですよね。特殊なのは犯罪じゃなくて――「この人」が。
咲崎:どうも、特殊人物扱いされている者です。
月弥:あ、はあ……。そ、それより、捜査の方はちゃんとしてくれるんですよね!
都:そこも問題なく。涼子さんの遺体は現在、鑑識の者が調査中です。
月弥:はぁもう……びっくりしちゃったんですよ。なんか落ち着かないなぁ。
都:遺体を発見した時の状況を伺っても?
月弥:いいけど……あんまり思い出したくないなぁ。
都:そ、そうですよね……。でも、捜査のご協力、ということで。
月弥:……ここは僕が漫画を描くときにだけくる、作業用のマンションなんです。今日も作業するためにここにきて……涼子はアシスタントだったんです。今日彼女も一緒に作業する予定になってたんです。でも予定時刻になっても来ない上に何の連絡もなくって。スマホに連絡入れたら、寝室からスマホの音が聞こえたんです。不思議に思って見に行ってみたら……涼子が……。
咲崎:アシスタントさんってのは、漫画のお手伝いをする人のことですか?
月弥:え、ええ……背景とか、描いてもらったり。
都:その質問今関係ないでしょう!?
咲崎:アシスタントさんは、涼子さん1人だけだったんですか?
月弥:――そう、ですね。彼女とはもう、長いことペアで描いてますから。
咲崎:涼子さんとの関係はどんな?
都:咲崎さん!関係ないことばっかり訊かないでくださいよ!不謹慎ですよ!
月弥:あぁまぁ別にいいですよ、隠すようなことでもないし。こういうの、喋らないでいると犯人と疑われそうだし。刑事ドラマとか。最近だと人狼ゲームとか、そうでしょ?
都:月弥さん、無理はしないでくださいね……?
月弥:涼子とは、中学時代からの幼馴染なんですよ。お互い絵を描くのが好きでね。描き合った絵を見せ合ってただけが、いつのまにやら合作して賞にでも出してみようかって話になって。それで、運よく新人賞でデビューしたのが高校生の頃だったかな。それからはずっと、一緒に二人三脚で漫画を描いてきました。でもまさか、こんなことになるなんて。何か思い詰めていたことでもあったのかな……。
都:思いつめていたこと?
月弥:なんだか最近、ため息が多いような気がして心配していたんです。疲れてるのかなと思って気にかけてた程度だったんだけれども、――もっと、僕が気にかけてあげていられたら――。
都:それは辛かったですね……。
咲崎:自殺?他殺ですよ、あれ。
月弥・都:え!?
咲崎:自殺前提みたいな話してますけど、どう見ても他殺でしょうあれは。
都:どうしてわかるんですか!?まだ鑑識もそこまでは……。
咲崎:それにしてもこのページの描写、めちゃくちゃ迫力がありますね?シリアルキラーが被害者の首を絞めて殺すところ!いやぁ絵なのにまるで生きているみたいだ。
都:ちょっと咲崎さん!誤魔化さないでくださいよ!
月弥:そのシーン、すっごく苦戦したんですよ!!……やだなぁ、こんな状況なのに、褒められると嬉しくなっちゃうもんなんですね。普段、こういったジャンルを描かないもんで。
咲崎:へぇ?普段はどんなジャンルを?
月弥:その……日常系みたいな。わかりますかね、平和なやつ。その、恥ずかしいんですが、ハッピーエンドが好きなんです。描いてて穏やかな気持ちになるから。……でも今度は担当に「サイコスリラー」に挑戦してみないかって言われてて。僕自身もクリエイターですから、表現の幅は広げたくて。四苦八苦してるところです。
月弥:はぇ~クリエイターってのはすごいですねぇ。向上心があるというか、なんというか。いやぁまるで本物みたいだなぁ。
都:咲崎さん、その辺にしてください。月弥さんは大切な方をなくしたばかりなんですよ!ほんっと変な人なんで、気にしないでくださいね。
月弥:あ、はい。……それより、他殺、なんですか?
咲崎:え?
月弥:あの、さっき、そうおっしゃってたから……。うちの作業場は、僕と涼子しか鍵を持っていないはずなんですけど。誰かに、殺されたってことですか?
咲崎:そうですけど。
都:なんでそう判断できるんですか!?
咲崎:あんなもん見たら一発でわかりますよ。遺体はベッドに仰向けに横たわっていた。まぁ服毒自殺と考えられなくもないですが、決定的なのは、彼女のタートルネックの下に隠された圧迫痕です。恐らく手袋をしての実行でしょう。指紋はありませんが、明らかに他人の手によって付けられたものです。恐らく絞殺でしょう。
都:あんなもんって……言葉に気を付けてくださいよ。っていうか、鑑識の前に勝手に遺体をいじらないで貰えますか!?でも他殺ってことは……涼子さんは一体誰に?
月弥:……。心当たりがあるとすれば……担当かなぁ……。
都:担当って、さっきおっしゃってた?
月弥:えぇ、出版社の。数日前、涼子が言ってたんです。「担当に、付き合ってほしい」って言われたって。涼子はそんなつもりはないからすぐ断ったみたいですけど、意外としつこかったみたいで……。あぁ、もしかしたら、そのことで思い悩んでいたのかも……?
都:確かに!急いでその担当さんにも事情聴取を……!
咲崎:待って都クン。涼子さん、なんで断ったんですか?
都:そりゃあ、女性にだって断る権利ぐらいあるでしょ!
咲崎:都クンに訊いてんじゃないんだよ。まぁ担当さんがどんな人かは知りませんけど、別に受け入れたっていいじゃないですか。なんで断ったんだと思います?
月弥:えーと、まぁ、たぶん……。僕と涼子が、付き合ってたから、かな。
都:えーっ!そうだったんですか!?キャーッ!
月弥:都クンやかましいよ。なるほどね。漫画家とアシスタント、と同時に恋人でもあったわけですねぇ。いい関係じゃないですか。
月弥:一応、連載もってますし、面倒なことになるのも嫌だったので、他人には隠していたんです。
都:なるほど、それで担当さんが知らなかったばかりに、恨みをかった可能性があると……。
咲崎:でもおかしいよねえ。担当さんが犯人だとするなら、涼子さんが担当さんをこの作業場に招き入れたことになる。一度手ひどく振った男を、それも恋人の部屋に入れるっ
って……あり得ます?
都:……も、もしかしたら、涼子さんは、担当さんに脅されてたのかもしれないじゃないですか!
咲崎:ま、その可能性は置いといて。
都:おいとくな!
咲崎:今日月弥さんが仕事場に来て、遺体を発見した時刻。だいたいでいいんですけど、覚えてます?
月弥:えっと……たぶん18時頃だったと思います。
咲崎:遺体を見た、っておっしゃいましたよね。その時、顔まで見ました?
月弥:混乱してて曖昧だけど……苦しそうな顔で横たわっていたので、動転してしまって。――思い出したくないです。
咲崎:そうですか。なるほどねぇ。
都:なぁにが「なるほどねぇ」ですか。無神経な質問ばっかり!いい加減にしてくださいよ
!
咲崎:月弥さん、殺しましたね?
月弥・都:えっ!?
都:なんっ、え、本ッ当にいい加減にしてくださいよ!!何を根拠に!?
咲崎:だってそうでしょ、月弥さんが嘘をついているから。
月弥:ええっ、そ、そんな!僕が嘘ついたって、殺したって証拠、あるんですか!?
咲崎:死体の顔、「苦しそうな顔」って言ってましたよね?本当によく見たんですか?
月弥:ええ!!しっかり見ましたとも!!この目で!!
咲崎:――遺体、笑ってたんですよ。
月弥:え……!?
咲崎:遺体の死亡推定時刻は約15時です。あなたは涼子さんの首を絞めて、遺体があっても不自然ではないような場所まで運んだ。そこからあなたはその苦悶の表情をスマホで撮影でもしたのか、その場で下書きでもしたのか、作業部屋に籠って作画作業に入ったのでしょう。そしてこの首絞めのシーンを描いたんです、涼子さんを参考に。
死体の死後硬直は、顔面で約3時間。――涼子さん、よほど幸せだったんでしょうね。18時頃に私が発見した遺体はね、……笑ってたんです。
月弥:そ、そんな……。
都:――そ、そんなことあり得るんですか?
咲崎:あり得ないこともないでしょう。涼子さん、あなたの作画の資料になれることが相当嬉しかったんでしょうね。いびつに歪んだ顔はゆっくり3時間かけて……幸福の笑顔になっていました。――月弥さんは涼子さんの合意のもと15時頃、涼子さんを絞殺した。全ては己の作品の資料にするため。――どうです?
月弥:……ううっ……そうだったんだ、そうだったんだ!涼子ぉ!やっぱりあんな提案受けるんじゃなかった!
都:月弥さん……!?
月弥:僕がどうしても猟奇的な場面を描けなくて、辛くて、筆を折ろうとすらしたときに、彼女が自ら言ったんです!!!
涼子:「これもアシスタントの仕事だから。いいよ。ちゃんと月弥が犯人だってバレないように一緒に考えるから、ね?」
「月弥の描く漫画、私はもっと見たいから」
月弥:あぁ、やっぱり、やっちゃいけない事だったんだ。あぁ、涼子、涼子ぉ……!
咲崎:そんなに落ち込まなくてもいいじゃないですか月弥さぁん!彼女は笑っていたんですから!きっと心の底から幸せに死んでいったと思いますよ?それに、貴方が涼子さんを永遠のものにした。――「これ」を描いたことによって。
都:……っ。
月弥:あ、あはは……。あなたみたいな考え方が出来たら、どんなに気楽だろうな。……でも、そうか。僕はちゃんと「涼子」を描き上げたんだ……。
咲崎:ええもう、そりゃあ、驚くほど生々しく。
月弥:……獄中で続き、描けますかね。
咲崎:そいつはちょっとわかりかねますねぇ。
都:あーーーーーっ!
咲崎:都クンやかましいなぁ。騒音で110番してやろうか?
都:いつもいつも思うけど、貴方に全部暴かれちゃうのが非常に腹立たしいんですッ!
咲崎:しょうがないじゃないの、わかっちゃうんだもん。
都:監視役として精神削られる私の身にもなってください。
咲崎:ラーメン奢るからゆるしてよ。
都:大体、「特殊犯罪捜査科」なんて紛らわしい名前にするから面倒なんですよ!ちゃんと銘打ってもらいたいもんですね、「特殊」じゃなくて「シリアルキラー」って!!
咲崎:あははは!そんな厄介なこと警察がするわけないだろ!早くいかないとラーメン先に食べちゃうぞ~~!!
都:こっら~~~~!!!まて~~~~~!!!
END
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