謎紳士のグラン・ギニョール
特殊犯罪捜査課 咲崎 条一郎 「紫鏡」
作:両声類謎紳士 月華
◆登場人物◆
咲崎 条一郎♂(さきざき じょういちろう):特殊犯罪捜査課の男。元殺人鬼。
清成 都♀(きよなり みやこ):特殊犯罪捜査課であり、咲崎の監視を任されている。
藤原 すみれ♀(ふじわら すみれ):雑誌モデル。あやめの双子の妹。20歳。
藤原 あやめ♀(ふじわら あやめ):フリーター。すみれの双子の姉。20歳。
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すみれ:ただいまー。
あやめ:おかえりー。
すみれ:あーもうくったくた。ヒール高すぎでふくらはぎパンパンなのよね~。あやめ揉んでよ~。
あやめ:……うん、いいよ。
すみれ:撮影も午前中で終わる予定だったのにさ。プロデューサーが現場で別件の仕事の話で盛り上がっちゃって。明日も撮影入ることになっちゃった。サイアク。
あやめ:そっか。
すみれ:ごめんね、明日一緒にディナー行く予定だったのに。
あやめ:……いいよ。誘ってくれたのは嬉しいけど、正直……ディナーなんて、どんな格好していけばいいのか分からなかったし。
すみれ:別に普通にしてればいいのに。
あやめ:すみれは……美人だからいいじゃない。アタシはそうもいかない……。
すみれ:またそんなこと言って。いつまで過去引きずってんのよ。
あやめ:――!!
すみれ:そりゃさ、アタシらの親はサイアクだったよ?でもさ、いつまでもそれでグズグズしてたって仕方ないじゃん。完全に今は縁切れてるわけだしさ。
あやめ:で、でも。
すみれ:おねーちゃんがそうやってグズグズしてるとアタシムカつくんだよね。もう過去のことだよ?割り切って今を楽しまなきゃ損じゃない?
あやめ:――でも、それは……。
すみれ:でもでもだっては聞き飽きた。は~アタシお風呂入って寝るね?
あやめ:……――ッ!(すみれを手鏡で殴りつける)
すみれ:いっ――!!ちょっ、あやめ!?
あやめ:おまえはいつだってそう!!いつだって、アタシの苦しみも知らないで!!――いや、知ってるくせに!!
すみれ:やめて!!痛い!痛い!!死んじゃう!!
あやめ:アタシの痛みを味わえ!!
すみれ:がッ――!(手鏡の持ち手で殴られて倒れる)
あやめ:はぁ、はぁ、はぁ……。ど、どうにかしなきゃ……。
都:清成です。現場のマンションに到着しました。これから部屋に向かいます。
咲崎:天才子役の次はスーパーモデルか。有名人ていうのは大変なんだね。
都:被害者はファッション雑誌『ピュアリル』専属モデルの藤原すみれさん。と、言うのはまだ公になっていないので絶対に口外しないでくださいね!深夜にパニックになっちゃいますから!
咲崎:キミほど余計なことを滑らす口は持ち合わせていないものでね。
都:なんだとぉ!
咲崎:(ノックをして)すみません。警察の者ですが。
あやめ:(ドアをあけて)あ……どうも、お待ちしておりました。すみれの姉のあやめです。
咲崎:……アナタが通報を?
あやめ:はい。良ければ中に入られますか。
咲崎:はい。立ち話もなんですし。
都:勝手に話を進めるな!深夜ではありますが、なるべく配慮いたしますので、捜査に入らせて頂きます!
咲崎:ふうん、気が付いたらお風呂場ですみれさんが倒れていた、と。
あやめ:はい……。帰ってきてそのままお風呂に向かって、大きな音がしたと思ったら、湯船に顔を沈めるように倒れていたんです。
都:大きな音?
あやめ:はい。ガシャーン!みたいな。……お風呂場の鏡が割れていたので、多分それにぶつかったんじゃないかなって。
咲崎:鏡へぶつかって、そのままふらついて湯船に……という感じですかね。
あやめ:帰宅した時相当疲れていたみたいだし……可能性はあるかもしれません。あと最近仕事も増えるばかりで大変だと、そう言っていました。だからめまいか、眠気でふらつきでもしたのかも。
都:なるほど、可能性はありますね。では現場の調査をさせて頂きます!
咲崎:――すみません、単純に興味本位なんですけど、いいですか?
都:良くない!
咲崎:この部屋はもともとフローリングだったんですか?
あやめ:え?――どうして、ですか?
咲崎:いやぁ本当に興味本位というか好奇心なんですけどね?なんかぼくたちのいる家具の部分と、ちょっと外回りのフローリングの劣化具合が違うなぁって?
あやめ:……ちょうど古くなってたんで、新しいのに変えようとしてたんですよ。すみれと一緒にどんなラグにしようかな~なんて話してたら、なかなか決まらなくて。
咲崎:なーるほど!すみれさんはラグにもこだわりそうですもんね!2人で話してちゃなかなか決まらなそうですねぇ。
都:めちゃくちゃ余談じゃないですか!もう!さっさと現場の調査行きますよ!!
あやめ:……。
都:うわっ……すごい状態ですね……。
咲崎:確かに鏡にはヒビ、シャワーは出しっぱなし、上半身だけが浴槽に入っている……。
都:状況的にはあやめさんの言う通りのようですね。
咲崎:よいしょ。
都:だから!軽率に遺体に触れるな!しかもはだかのレディーの!!
咲崎:こりゃーモデルとしちゃ致命的だ。額に強烈な打撲痕がある。
都:うわ、本当だ……!これがたぶん、鏡にぶつけた時の傷ですね……。
咲崎:いーや、そうとは言いきれないんだな。
都:え?
咲崎:見てごらんよ、この両腕。
都:え!?なにこれ、切り傷でいっぱい……??
咲崎:鏡によろけてぶつかっただけじゃあ、こんなところに傷はつかない。さすがにキミでも分かるだろう?
都:そうですね……。これ、何の傷なんだろう……?
咲崎:例えば……。――ッ!(都に向かって拳を振り上げる)
都:ひっ!!なにするんですか――あっ!
咲崎:そう、今まさにキミは咄嗟に自分の顔を守るために両手で庇っただろう?恐らくこの傷は、その時のものだろうね。
都:……と、言うことは……。
咲崎:すみれさんは、他殺だ。そして現場は深夜、可能性が高い人物がひとりいるじゃあないか。
都:……そんなの、聞いてみなきゃ分からないです!
咲崎:それもその通りだよ。じゃあ、お話を聞きに行くとしようか。
あやめ:すみれが、他殺……?本当ですか?
都:現場検証の結果、その可能性が高いとみています。
あやめ:そんな……。玄関にはカギをかけているはずだし、あぁでも、疲れて入ってきたすみれがカギを閉め忘れた、とか……?
咲崎:アナタはどこにいたんです?
あやめ:え?
咲崎:すみれさんが帰ってきた時、アナタはどこにいらっしゃったんですか?
あやめ:ここにいました。リビングに。おかえり、と挨拶をして、フラフラ風呂場へ行くすみれを見送って……。
咲崎:そうなるとその間、誰もここを通らなかったということでよろしいですね?
あやめ:――そう、なりますね。
咲崎:そうなると犯人はあらかじめ、いつ帰ってくるかもわからない、しかも同居人であるあやめさんに見つからずに風呂場に忍び込んでいたことになる。
あやめ:……確かにお風呂場には、窓もありませんしね……。
咲崎:あやめさんは今日一日、家を外しましたか?
あやめ:……いいえ、お休みだったもので。
咲崎:だったらなおのこと、犯人の存在の立証が難しくなってくるわけです。
あやめ:――ならやっぱり、事故死の可能性の方が高いんじゃ――。
咲崎:「アナタを除けば」です。
あやめ:――!
咲崎:むしろアナタにしか実行できないのではないかというお話ですよ、あやめさん。
あやめ:そ、そんな。
咲崎:すみれさんの遺体には額の打撲痕の他に、両腕に謎の切り傷が大量にありました。雑誌のモデルをやるような人間が、こんなリストカットまがいの行動を取るとは思えません。
あやめ:――仕事にも疲れていたみたいだったし、もしかして……?
咲崎:そうであったとしても、疲労困憊の状態で倒れるような状況で出来ることではありません。そして極めつけはこの傷跡の順番です。
あやめ:順番?
咲崎:打撲痕よりも、この腕の切り傷の方が先なんです。
あやめ:どうしてそう言い切れるんですか?
咲崎:都クン、お風呂の温度何度だったっけ?
都:はい、37度でした。
あやめ:すみれはいつもそのぐらいの温度で入ってたと思うんですけど……それがなにか?
咲崎:血液と言うのは不思議なもんでして、37度程度の温度の中だと凝固せずに、お風呂は血まみれになっているはずなんです。でも腕の傷はとっくに凝固していて、37度のお湯の中にあってもお風呂の水は綺麗なままでした。
あやめ:……。
咲崎:シャワーも出しっぱなしになっていたので、室温もおおよそ37度程度だった。つまり腕の傷が出来た現場は、お風呂場じゃないんですよ。
あやめ:じゃあどこなんですか。
咲崎:――「ここ」です。
あやめ:……。
咲崎:アナタはなにか……刃物のようなものであやめさんを切りつけ、殴りつけた。恐らく衝動的なものだったんでしょう。ラグには血がべっとりついてしまった。あなたは急いでラグを処分し、遺体を風呂場へ運び、打撲痕を誤魔化すために風呂場の鏡を割った。そして、事故死を装った。――とまぁ、これが私の推理なんですが。どうでしょう?
あやめ:……。
都:あ、あやめさん、無理しないで……。
あやめ:――あの子が、悪いのよ。
都:えっ……。
あやめ:いつもアタシに見せつけてくるの。その美しい笑顔をね。アタシはずっと、ずっとそれが……大嫌いだった。
咲崎:――ッ!
あやめ:普段は髪で隠してるんですけど。――ほら、見てください。
都:えっ!?そ、その傷は……!?
あやめ:アタシたちの親は、とんでもない人だったんですよ。虐待なんか日常茶飯事で。すみれが学生時代、スカウトでモデルの仕事を取ってきたことで、アタシたちは両親とは離れ、絶縁して暮らしてきたんです。
都:それは……とても辛かったですね……。
あやめ:そう、なにもかも、なにもかもすみれのおかげ。アタシがフリーターとして低収入でも生きていけるのも、なんでもかんでもすみれのおかげ!このたったひとつの傷のせいで!!姉なのに、すみれに頼るしかなくて!!すみれの笑顔で回るアタシの世界が、息苦しくて仕方なかった!!どうして、私とすみれでこんなに違うの!?
都:あ、あやめさ――。
咲崎:分かりますよ。
あやめ・都:えっ――。
咲崎:笑顔っていうのは、なんであんなにも憎たらしいんでしょうね。めちゃくちゃにしてやりたくなる。私たちのように土の中に生きるような人間には、眩しすぎて。
都:咲崎、さん?
あやめ:――思ってたより、優しい人なんですね。
都:え゛?
あやめ:……見てください。これが、凶器です。
咲崎:なるほど、手鏡でしたか。全てが繋がりました。ご協力、感謝します。
あやめ:鏡が全て、こんなふうに割れていたらいいのに。そしたらきっと、誰も見た目のことなんて気にしなくなるのに。
咲崎:――心中、お察しします。
咲崎:都クン、「紫鏡」って知ってるかい。
都:「紫鏡」?あー、20歳まで覚えてると死んじゃう、って都市伝説ですか?
咲崎:凶器の手鏡、綺麗な紫色の装飾だったなぁと思ってね。
都:そんなとこ見てたんですか?――っていうかなんか、今日妙に大人しいですね……。
咲崎:キミと違って私はナイーヴなんだよ。思い出に浸っていたのさ。
都:お前の思い出なんて血みどろのグロテスクなやつでしょうが。
咲崎:あぁまぁ、そうだけど。ある男のことを思い出したんだよ。
都:男?
咲崎:あぁ。そしてそいつの笑顔も――眩しすぎたなぁって。
都:え……。
咲崎:今日はラーメン奢らないよ。真っ先に帰らないと、ケーサツさまとの約束を破ってしまいそうなんでね。
都:咲崎、さん……。本当に、大丈夫なんですよね?
咲崎:気を付けて帰りたまえよ。――私も気を付けるからさ。
おしまい
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