謎紳士のグラン・ギニョール
特殊犯罪捜査課 咲崎 条一郎 「厚化粧」
作:両声類謎紳士 月華
◆登場人物◆
咲崎 条一郎♂(さきざき じょういちろう):特殊犯罪捜査課の男。元殺人鬼。
清成 都♀(きよなり みやこ):特殊犯罪捜査課であり、咲崎の監視を任されている。
本八幡 恭司♂(もとやわた きょうじ):咲崎を特殊犯罪捜査課に任命した男であり、かつ咲崎のカウンセラー。元警察、58歳。
山本 康弘♂(やまもと やすひろ):まみの秘書。
宮瀬 まみ♀(みやせ まみ):化粧会社『ほほえみ』の社長。
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咲崎:失礼します。
本八幡:やぁ、咲崎くん。元気にしているかね。
咲崎:おかげさまで。
本八幡:キミの活躍は聞いているよ。頑張っているそうじゃないか。
咲崎:大したことではないですよ。それに、頑張るような程のものでもないですし。
本八幡:キミはとても頭の回転が早い。過去に殺人を繰り返しているからこそ、視える視点もある。日本にもそういった部署が必要かとキミを起用したのだが――間違いはなかったようだね。――今のところは。
咲崎:――「今のところ」、と申しますと。
本八幡:清成くんから話を聞いていてね。先日の双子の事件の時、キミは様子がおかしかった、と。
咲崎:……えぇ、まぁ。そうでしたね。
本八幡:思い出していたのだろう。
咲崎:……えぇ。
本八幡:でもキミは衝動に打ち勝った。それはとても素晴らしいことだよ。
咲崎:さてね。打ち勝ったかどうかは……都クンは知らないんじゃないですか?
本八幡:私は信じているよ。だって、この「私が」目を付けた人間だからね。
咲崎:――はぁ、やはり本八幡先生には敵いませんな。
本八幡:ふふふ、現役を退いたとはいえ、私も警察の人間だからね。キミには罪滅ぼしとして、犬となってその頭脳を活かしてもらわないと。
咲崎:その犬が噛みついてきたらどうするおつもりで?
本八幡:犬が噛みつくことを恐れることもある。
咲崎:噛みつくことを……恐れる?
本八幡:あぁそうだ。感情を持っているのは人間だけではないということだ。さて、カウンセリングを終わろうか。もう大丈夫だよ。
咲崎:……失礼しました。
本八幡:……殺意も慟哭も、感情の一つに過ぎない。信じているとも、咲崎クン。
まみ:ただいま。
山本:宮瀬社長、おかえりなさいませ。
まみ:はぁ、疲れた。新商品の会議、全ッ然進まなくって。薬事法だの成分表示だのあーだこーだとほんっと頭の固い連中だわ。
山本:……。
まみ:でも次の商品は無理でも押し通すわよ。自信があるの。次の『ほほえみ』の新商品は、コンシーラーいらずのオールインワン系ファンデーション!塗るだけで華やかな色の笑顔になれちゃう!まぁ、多少の有害物質は我慢してってカンジだけど。
山本:……有害物質、ですか。
まみ:ほんのちょーっと成分表記と違うものが入ってたりするだけよ。でも女性は美しくなりたいものなの。多少のリスクを負っても絶対買うわ。そもそも化粧自体が肌をいじめる行為なのに、女は美しくなれると思って喰いつく。愚かよね!おかげさまでうちが潤っているわけだけど!
山本:はぁ、そういうものなのですね……勉強になります。
まみ:……あんた、山本だっけ?
山本:は、はい!そうですが。
まみ:アタシの秘書やってもう何か月?いい加減アタシの扱いに慣れなさいよね!あとそのヘラってした、中途半端な笑顔、腹が立つからやめてくれない?
山本:そんな顔をしておりましたか!?すみません、ご無礼を……。
まみ:じゃ、アタシお風呂入って寝るから。バッグの中の資料、棚に戻しておいて。それじゃーね。
山本:かしこまりました。――バッグの中の資料……これか。えっと、これは『ほほえみ』の販売物一覧のファイル……。……!こ、これは……。
都:今度は有名化粧ブランド『ほほえみ』の社長さんが被害者!?どうして有名な人って、狙われちゃうんですかね~。
咲崎:有名税ってヤツじゃないのかい。知ったこっちゃないけれどね。
都:わーー!めちゃくちゃ高いオフィスビル!現場はあそこなんですね、なんか緊張する……。
咲崎:一般人からしたら警察署の方がよっぽど緊張すると思うがね。さぁさっさと済ませようじゃないか。
都:(ノックして)夜分に失礼しますー。警察の者です。
山本:あぁ、お待ちしておりました。
咲崎:!?
山本:……?どうかされましたか?
咲崎:……いえ、何も。失礼ですがあなたは被害者とどのような関係で。
山本:私は社長の秘書をしておりました、山本と申します。数か月前に配属されたばかりで、右も左もわからないままだったのですが、先ほど気づいたら社長がその……亡くなっていて。
咲崎:わかりました。現場を調査させていただいても?
山本:もちろんです。どうぞ。
咲崎:……ありがとうございます。
都:……。
清成:山本さんが発見した当時は、すでにこの状態だったと?
山本:はい、なんというか……酷い有様で。
都:うわー……。メイク道具で顔に落書きしてあるみたいな……なんですかね、これ……。
咲崎:都クン手袋。
都:それぐらい自分で持っててください!ほら!
咲崎:ふん……口紅、アイシャドウ、チーク……まるで乱暴にすべて塗りたくったみたいな感じだな。
都:うーーん。
咲崎:変な顔してどうしたんだい。
都:変な顔とか言うな!――いや、まぁ、見てわかると思うんですけど、女の人ってこんな化粧、するかなって。そもそも化粧会社の社長ですよ?化粧落とさないで寝たにしても、アイライナーもマスカラもしてないのは……なんか、違うというか……。
咲崎:別にノーメイクの化粧品会社社長がいたっていいだろう。ただ、「女性がした化粧ではない」という点については同意だ。順番もめちゃくちゃだし、そもそも寝るときに化粧はしない。
都:メイク落とすのめんどくさくてそのまま寝ちゃう女性だっています~。
咲崎:自己アピールは結構。つまりこれは他殺であることは確定だ。問題は「誰がやったか」だ。
都:可能性があるのは秘書の山本さんですけど……そんなことしますかね。とても素敵な笑顔をしていたのに。
咲崎:……笑う人間は人間を殺さないとでも思っているのかい都クン。まぁ当然怪しいのは彼なのだが……死因がまだ立証できない。――ん?
都:どうしたんですか?……あー!遺体とはいえ乙女の柔肌に触るなんて!
咲崎:……みたまえ、都クン。この手袋の汚れ様。
都:え!?わ!本当だ!これってもしかして、リキッドタイプのファンデーション……?
咲崎:ふぅん……。こいつはすごいな、そのリキッドファンデーションとやらが身体中にべっとり塗りたくられているよ。腕も、脚も、服の下にさえも。
都:変ですね、普通こんなことしませんよ。なんでこんなことを……?
咲崎:……もしかしたら、顔のメイクはカモフラージュだったのかもしれない。――都クン、この手袋についたファンデーション、鑑識に回してくれないか。
都:ファンデーションを鑑識に?どうして?
咲崎:これが「死因」かもしれない、ってことだよ。
山本:捜査お疲れ様です。ええと、その……。
咲崎:特殊犯罪捜査課の咲崎です。
山本:あぁ、そうでした……。警察にもいろんな部署があるんですね、驚きました。
咲崎:――ッ!……宮瀬社長の遺体を確認させていただきました。結果、他殺であることが判明しました。
山本:……本当ですか?
咲崎:えぇ。死因は社長の身体に大量に塗りたくられていた、リキッドタイプのファンデーションです。鑑識の結果、これにはかなりの有害物質が含まれていました。犯人はそれを知っていたんでしょう。社長が眠った隙に忍び込んで、それを全身に塗りたくった。よく起きなかったものですね、社長はよほど疲れていたのでしょう。そしてその有害物質はじわじわと就寝中の社長の身体を蝕んでいき、そして……いつの間にか社長は冷たくなっていた。
山本:化粧品に有害物質が入ることがあるんですか?
咲崎:ゼロ、と思いたいですが、化粧をすること自体肌に負担をかけますし、基本的には薬事法や成分表記のルールなどで厳密に守られているはずです。――そう、本来であれば。
山本:本来であれば……?
都:山本さん、これ、見覚えありませんか?
山本:それはファイル……ですか?
都:『ほほえみ』の商品一覧と成分が載っているファイルです。これらに目を通した結果、株式会社『ほほえみ』の化粧品ほぼすべてが、薬事法などを無視した有害物質を利用していることが明らかになりました。
山本:そ、そんな……。
咲崎:秘書さん、これ、聞かされていませんでしたか?社長に。
山本:わ、私は数か月前に入っただけで、あまり化粧品のことも詳しくないですし……。
咲崎:今日社長が家に戻られた時間はいつですか?
山本:……夜の10時ぐらいだったと思います。
咲崎:社長の死を発見したのは?
山本:夜の2時ぐらい……通報とほぼ同時刻だと思いますが。
咲崎:その間、あなたは何をしていたんですか?
山本:……。
咲崎:……。
山本:社長が、0時頃まで仕事をなさるとおっしゃったので、その手伝いを……。
咲崎:どんな仕事ですか?
山本:……えっと、新商品を出すんだーって、張り切っていらっしゃったので、資料のまとめとか。
咲崎:なるほど新商品ですか。それなら張り切るでしょうね。どんな商品を?
山本:今回もまた、オールインワン系……?のファンデーションだそうです。コンシーラー……?いらずの……。
咲崎:新商品がファンデーションで、死体に塗られていたのもファンデーションですか。これは奇遇ですね。
山本:そ、そうですね……。
咲崎:そもそも山本さんはどうして社長の秘書に配属されたんですか?
山本:え……?
都:まーた関係ないこと聞いてっ!
咲崎:閑話休題ってやつだよ。化粧品にもあまり詳しくないようだし、どうしてかと思いましてね。気になっただけ。
山本:……妹が、『ほほえみ』の大ファンなんです。ファンって言い方はおかしいかな。その、お気に入りブランドっていうか。
都:へぇ、妹さんがいらしたんですね。
山本:はは……そうなんです。だから妹の憧れのものに携われる場所に入ってみたいなぁと思ったんです。そしたら面接、通っちゃって。
咲崎:……。
山本:そう、だから、その……。
咲崎:妹さんの憧れのブランドだった『ほほえみ』は、とんでもない悪徳業者だった。そしてあなたはそれに気づいてしまった。――だからやったんでしょう?
都:!?
山本:……。
咲崎:あなたは社長秘書をやるにつれ、この会社の裏の部分を知り妹に合わせる顔がなくなった。そうしている間にも『ほほえみ』の化粧品が出回り、かわいそうに妹の顔面がどんどんと穢される。あなたはそれが許せなかった。――そうでしょ?
山本:……うーん、やっぱり私、こういうの向いてないな、あはは……。
咲崎:――ッ!
山本:嘘は昔から苦手でしてね。……そうです。私が宮瀬社長を殺しました。……お願いします、逮捕して下さい。
都:え!?あ、はい……。
咲崎:……。
都:で、では、署までご同行願います。
山本:はい。
咲崎:――(静かに山本の背後に忍び寄る)ーーふっ!(山本に殴りかかる)
都:……!?咲崎さん、だめッ!!――きゃあっ!!(かばって殴られる)
咲崎&山本:!?
山本:警官さん!!大丈夫ですか!?
咲崎:み、都クン……!?
都:痛ッ……たぁ……!
山本:え、え?どうしたんですか、咲崎さん……?どうして……?
咲崎:……ッ!(震えた声)
都:謝ってください。
咲崎:さっきから10回は謝っているだろうが。
都:いーーーや!まだ8回しか謝ってません。
咲崎:キミも大概性格が悪いね。
都:私は警察ですから。そういうのはきっちりするんです。
咲崎:あぁそうかい。
都:――山本さんのこと、殺そうとしましたね?
咲崎:……。
都:家に入るときからおかしいなって思ってたんです。山本さんが笑うたびに、貴方の表情が硬直するのも。
咲崎:そんなとこまで見ていたのか。気分が悪いな。捜査に集中していたまえよ。
都:私は貴方の監督役でもあるわけですから。職務は全うします。
咲崎:……。
都:……本八幡さんから全部聞きましたよ。……貴方には双子の弟がいた。でも貴方は、弟のことが――みんなから愛される弟の笑顔が気に入らなかった。だから、殺した。それからずっと、似ている人を見つけては、殺してきたって。
咲崎:……あのクソじじい。
都:私は警察ですから、人殺しを看過することはできませんが……私個人で言うなら、「そういう人もいるよね」って感じです。
咲崎:……ふうん。
都:人間は自分の思っている以上に、いろんな感情を持ってます。だからこそ犯罪が起きる。――私はそんな人の救いになれたらな、って、警官を目指したのを思い出しました。
咲崎:唐突な自分語りどうも。しかし「救いになる」だって?思い上がりも甚だしいねぇ。キミみたいな小娘が。
都:貴方もですよ、咲崎さん。
咲崎:……。
都:私は誰も見捨てませんから。
咲崎:……そりゃあ大きく出たもんだ。やってみるといい。せいぜい無様に私の周りでキャンキャン喚いていることだね。じゃあ私は帰るよ。病院って場所はどうも居心地が悪い。
都:ちゃんと私が入院してる間は自宅謹慎しててくださいねー!こらー!聞いてるかー!咲崎ィーー!
咲崎:……犬が「噛むのを恐れる」か……。あのジジイの思うツボだ。クソっ……!
おしまい
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